一般社団法人 臨床改新協会(CIT)代表である湯田健二が、昭和大学大学院 教授の宮川哲夫先生と対談しました。
(宮川先生)
元々、他の大学でフランス文学を学んでいましたが、熊本の実家の近くに重症心身障害児施設があり、そこの園長と父が友人であったために、小生を理学療法士にしてその施設に努めさせようという策略に、まんまと、はまってしまいました。その後、高知リハに行きました。
ですからやる気のない学生で、試験は60点が目標で、再試験も多いときで7つ受けて全て合格し留年はしませんでした。ちなみに同級生の半分は留年しました。
学生時代は授業の3分の1は休み、ロックバンドを作りもっぱらべースの練習に明け暮れました。酷い学生でした。
(湯田)
今の先生からでは想像がつきませんね(笑)。
(宮川先生)
卒業して熊本の施設に勤めるのですが、重度の脳性麻痺ですので、突然肺炎で亡くなるのを目の当たりにして、どうにか関われないかと思ったのが、最初のきっかけです。
卒業して次の年には日本理学療法士学会で「脳性麻痺児の呼吸機能」について発表しました。
呼吸生理学が面白くなり、4年間努め、フランスへ留学したくなり東京の病院に就職し、夜はフランス語の勉強をして、4年たちリヨン大学に行こうと考えていましたが、呼吸に関する興味も強くなり、フランスに行かないで、アメリカに行って呼吸療法士の資格を取ろうとTOEFLの試験を受けてUCLAに行くことになりました。
そして日本で第2回目の呼吸療法講習会があり、ハワイ大学の呼吸療法科の教授と一緒に講演をして、何とハワイ大学に留学することになりました。
約2年間ハワイ大学で勉強してからフロリダ大学シャンズ教育病院で臨床実習を4ヶ月行い、帰国しました。帰国後は呼吸理学療法や呼吸ケアの確立を図りたいと仕事をして参りました。
(湯田)
やはりきっかけは臨床だったんですね。先生の臨床への強い思いが伝わります。
また、すでに海外を視野に入れられていたんですね。
(宮川先生)
学生時代はほとんど勉強しないで、試験週間は徹夜で一夜漬けで、臨床実習にでました。臨床実習で患者さんを担当してから申し訳なく思い勉強するようになり、臨床実習の成績は一番でした。
理学療法士になってから英文やフランス語の論文を読むようになりました。その当時から、一貫して今もそうですが、講演依頼や原稿依頼があると関連する英文はほとんど目を通し最新の知見を講演したり、書くようにしています。
呼吸に関する勉強はほとんど独学といえます。
(湯田)
ここでも勉強への意欲が高まったきっかけは“臨床”であったわけですね。
(宮川先生)
これから理学療法の分野はより細分化し専門的になります。
そのためには隣接の学問を学ぶ必要があります。呼吸の理学療法を行うには、呼吸のアセスメント(血液ガス、画像診断、呼吸機能、モニタリングなど)、呼吸の解剖生理、呼吸理学療法、薬物療法、酸素療法、給湿療法、人工呼吸療法、気道の管理などの幅広い知識と技術が必要になります。
そこではじめて専門性を発揮することができるのです。
小生の専門性が生かせるのは、理学療法士だけでなく、臨床工学技士や米国呼吸療法士の資格を持っているからだと思います。そして海外の論文を今でもたくさん読んでいるからだと思います。
最新の知識をいつでも取り入れることです。
(湯田)
今後は患者さんも多様化する時代です。
先生がおっしゃるように隣接学問を学び、そこからセラピストとしての本質を見出していく必要があるわけですね。
(宮川先生)
もうすぐ定年退職しますが、今後は新しい大学で国際的な分野を作り、海外で通用する理学療法士・呼吸療法士を育てたいと思っています。
米国の呼吸療法士の資格が取得できるコースを考えています。そのためにも小生の授業は英語で行おうと思っています。
できればもう一度留学したいのですが、難しいですね。
海外の大学や病院と提携を結び、臨床実習や共同研究や交換留学生の教育などを考えています。臨床は大好きで、いくつかの病院で呼吸ケアの回診や呼吸リハの外来も行っています。いろいろなところから診療の依頼が来ます。
在宅であったり救急・ICUであったり新生児科であったり疾患も様々で、呼吸ケアで困っている患者さんの依頼です。今までいろいろな疾患の患者さんをみています。
そして、今でも新しい分野には挑戦しています。肺エコー、人工呼吸器、気道クリアランス法、嚥下と呼吸と咳の関係、早期離床などです。国際呼吸ケア委員会の日本代表や呼吸器関連の学会の理事、NPO呼吸ケアネットワークの理事長や新しいガイドラインの作成委員もしています。
呼吸ケアの確立に生涯を捧げたいと思っています。
(湯田)
一貫したお考えの中で、生涯走り続けていく先生の姿は若いセラピストにとって本当に勇気づけられることだと思います。
(宮川先生)
幅広い知識のある専門性を持った理学療法士になって欲しいと思います。
自分の専門性を持ち、その分野の海外の専門家のところに留学して欲しいです。
近年、日本の理学療法の分野でも英文の論文がたくさん見られるようになってきました。
理学療法士の博士もたくさんいる時代です。これからは少なくとも英語が必要です。
国際的に活躍できる理学療法士になって欲しいと思います。それと臨床はとても面白く自分にしかできない分野の確立をお願いします。
(湯田)
臨床・海外・最新の知見と先生の非常に強いお考えが一貫してぶれていないことが良く分かりました。
また私自身、セラピストとして自分を見直させて頂く機会となりました。本日は大変お忙しい中お時間を頂きありがとうございました。